ヒーローはいつも正しくなくてはならない。なぜなら、彼は警察官であり、裁判官、そして死刑執行人だからだ。
「私利私欲では駄目なのか?」
弟が質問する。
「不味いよ」
「では、個人的な信念と正義の違いは? 論証せよ」
ぼくは首を捻った。
「分からない。同じかな?」
「複数の正義が存在するとした場合、対立する要素はどうする? ひとつの犯罪に対し、複数の逮捕理由、複数の判決、複数の刑の執行を認めるわけ」
同じ犯罪で何度も裁かれる。それは地獄だ。
「そうだ。早い者勝ちにしよう。最初に見つけたヒーローが優先権を持つんだ」
「そうすると同じ犯罪に対して全く異なる裁きが下ることになるけどOK?」
「なんだよ。反対ばっかり! じゃあ、正義の味方の定義ってなに?」
ぼくは弟を睨む。
「法律の施行が曖昧な地域に限定的に現れる自己中心的な意見とその実行者かな?」
「なにそれ?」
「つまり、現代の法治国家にヒーローは必要ありません。『正義の味方』になろうとすること自体が犯罪といえます」
驚いてぼくは着ていた衣装を掴んだ。
「え? ぼく犯罪者?」
ブラウン管の中のヒーローを真似て古着を利用したコスチュームは自分でも上等な出来である。
「いや、そういう問題以前にネックがある」
「うん?」
「この際、民主主義の原則が踏みにじられることは良しとしよう。だけど、ぼくと同じ顔の兄さんが、その服を着るのだけは止めてほしいんだ」
「どうして?」
「どうしてって」
双子の弟の盛大な溜息が響いた。
ぼくは釈然としない思いで鏡に映る少女仮面ライダーEXの衣装を身に付けた己の晴れ姿を眺める。ミニスカートは膝の位置と形が重要だという持論が見事に証明されていた。