「あんたって本当にお菓子が好きよね」
居間でポッキーを齧っていた私は目だけを動かして姉を見た。
「太るぞ」
「いいよ、別に。食べる?」
頷いて姉はポッキーを摘まんだ。
「一本だけね。ダイエット中だから」
姉の彼氏はスマートなのが好みなのである。太った女は論外だと言う。
「男のために我慢って馬鹿らしくない?」
「そうでもないよ。いろいろと利点もあるしね」
「たとえば?」
私は姉の方に身を乗り出した。
「どこに行っても全部あっちが支払うし、荷物は言わなくても持ってくれる。あと、そうだな。プレゼントとかくれるよ」
「なるほど。つまり、彼氏とは財布兼荷物運びロボですか?」
姉は頷く。
「というより、それ以上を求めてるアンタはロマンチック過ぎると思うぞ」
「夢見がちな年頃なんです」
「現実の男と付き合うことを勧めるね。こんなもの見てお菓子食べてるよりは有益じゃない?」
液晶画面にはメロドラマが映っていた。
「確かに」
「紹介しようか? 知ってるヤツでさ。アンタと付き合いたいってのがいるんだよ。この間、文化祭に来た時に見たんだって」
「それは、それは」
有難い。しかし、姉が家に彼氏を連れて来る度に、しつこく誘惑されて男性不信なのはどうしたものか。
「結構、カッコイイよ。会ってみなって」
その事実に姉は気付いているのではないかと思う。
「考えてみる」
いつ明白になるのだろう。姉が彼氏と別れるのが先かもしれない。
「人生は甘くないんだよ。すぐにオバサンになるからね」
姉は禁を破って、もう一本ポッキーを摘まむ。
確かにそうだ。世の中には、甘いものなんてお菓子しかない。