SISTER

偶像

 新聞を片手に妹が質問を発する。
「連続殺人犯の条件はなんでしょう?」
 新聞の一面には、近頃、世間を騒がせていた連続殺人犯の逮捕の報が掲載されていた。
「人を殺し続けること?」
 私は首を傾げる。
「不正解! 人間を殺したい衝動で張り裂けそうな胸のときめきに居ても立ってもいられない。これが絶対条件」
 妹は夢見がちな娘だ。
「行為自体は重要ではないと?」
 あまり趣味の良い夢ではないが、許容の範囲内ではある。
「それはあくまで結果。物事は過程が大事なの。なぜそこに至ったか。考えなければならない点は無限にあるけど、一番は生い立ち」
「幼児期の体験? トラウマとか?」
「いいえ。衝動が環境によって形作られることもあるわ。でも、この場合は当てはまらない。生まれついての衝動なの。つまり、ナチュラルボーンバッドなのよ」
 妹は私の前に指を立てた。
「じゃあ、なんで履歴?」
「殺人手法の細かな好みを決定づけるのは、やっぱり成長過程の経験や学習が大きく作用するから」
「なるほど」
 頷く私に妹は新聞を叩いて抗議する。
「私ほど彼を理解している人間はいないのに。どうして裁判日時が平日なの? 学生は傍聴するなってこと?」
「さあね」
 逮捕された殺人犯が俳優張りの容姿だったため女性を中心に信奉者が急増中だ。
「彼と私の仲は誰にも邪魔させないんだから!」
 せめてジャニーズか宝塚にしてもらえないものだろうか。
 私は、妹目当てに足繁く通って来る友人の顔を思い浮かべていた。

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