私の姉は美人です。
「最近の映画ってさ。リメイクとか続編ばっかじゃない。もう少しクリエイター魂を見せてほしいわよね」
「仕方ないよ。資金が集まらないんだもん。衰えまくってる産業にお金は出したくないでしょ」
ポテトチップスを摘まみながら姉を諭してみた。
「映画黄金期に生まれたかったなあ。冒険と開拓! 憧れる!」
冒険する必要のない容姿に生まれた人間が持つべきでない感慨だ。
「そしたら、お姉ちゃん。今、お婆ちゃんだよ」
「あんたね。夢ってものがないの? 私より確実に五才は若いはずだよね?」
姉は呆れた顔で私を見ている。どんな表情をしてもデザインが決まっていた。
「うん。まだ中学生」
「だったら、若者らしくしたらどうなのよ」
言葉が古い気がします。
「私があんたくらいの頃にはねえ」
ますます年寄り染みてきた。姉は学生だと思っていたが勘違いだったのだろうか。
「聞いてるの?」
「聞いてます」
「もう、なんとかして。この『暖簾に腕押し』を!」
携帯のバイブレーションがして姉は鞄を探った。
「アキオ。なに? 今? 別になんにもしてないよ」
私の最新の願い事は姉の彼氏に関することである。
「バカじゃない。あんたってさ」
これ以上、『アキオ』に個人的な興味を持ちたくないものだ。
私はポテトチップスの袋に指を突っ込む。脆く崩れる薄片は指に張り付いて気持ち悪かった。